【書評】定番回路シミュレータLTspice部品モデル作成術

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当記事では、日本で唯一、LTspiceの部品モデル作成についての解説書『定番回路シミュレータLTspice部品モデル作成術』について、詳しく紹介します。

目次

『定番回路シミュレータLTspice部品モデル作成術』の特徴


日本でも回路シミュレータ「LTspice」の解説書は数多く出回っていますが、そのほぼ全てがLTspiceの設定・操作方法について書かれたものでした。

そのため、LTspiceの操作については問題ないけど、LTspice付属の部品モデルで大雑把なシミュレーションしかできないと悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

定番回路シミュレータLTspice部品モデル作成術』(以下、本書)は、主に自分で部品モデルを作成する方法について丁寧に解説されており、高精度な部品モデルを使用してより現実の回路と近いシミュレーションを行うための知識を得ることができます。

Pspice用の部品モデルをLTspiceに導入できる

やはり、いきなり自分でLTspiceの部品モデルを作成するのは敷居が高いです。

そこで、まずはデバイスメーカーが無料で配布しているPSpice用のSPICEモデル(部品モデル)を、LTspiceに導入して利用してみるのがおすすめです。

確かにほとんどのデバイスメーカーで配布しているSPICEモデルはPSpice用なので、LTspiceでは使用できないと思ってしまう方は多いのではないかと思います。
(そもそも、LTspiceはフリーの回路シミュレータと言えども、アナログ・デバイシズ(旧リニアテクノロジー)の製品なので、特に他社の半導体メーカーがLTspice用のSPICEモデルを配布することはできないですよね。)

実はPSpiceはLTspiceと互換性が高いため、PSpice用のSPICEモデルであっても、一部を除いてほとんどがLTspiceで使用することができるのです。

本書では6章「従来のPSpiceモデルをLTspiceモデルに置き換える方法」にて、PSpice用のSPICEモデルを導入する方法が詳しく解説されているので、今まで知らなかった方にとっては、この内容だけでも大幅に利用できる部品モデルの数が大幅に増えるのは間違いないでしょう。

様々な電子部品の部品モデル作成方法を網羅

本書の前半では、部品モデル(SPICEモデル)には大きくわけて、「パラメータモデル(デバイスモデル)」と「等価回路モデル(サブサーキットモデル)」の2種類があり、それぞれの特徴について詳しく解説されています。

部品モデルの基礎知識や違いがわからないまま、部品作成に進んでしまうとつまづいてしまう可能性が高いので、部品モデル作成の初心者にとっても非常に親切な構成になっています。

さらに、本書の後半では、以下のように様々な電子部品の部品モデル作成方法についての解説が詳しく書かれています。

本書で解説されている部品モデル
  • 抵抗
  • コンデンサ
  • コイル
  • 汎用ダイオード
  • ショットキー・バリア・ダイオード
  • 発光ダイオード
  • バイポーラトランジスタ
  • MOSFET
  • IGBT
  • 電圧制御IC
  • DCモータ
  • トランス
  • 太陽電池
  • 真空管
  • スピーカー
  • エミフィル
  • プロートライザ

など

オペアンプについて書かれていないのが残念ですが、それでもアナログ電子回路で使用機会の多い受動素子、能動素子が網羅されている上に、DCモータや太陽電池など一般的に流通していない部品モデルの作成方法についての解説もあります。

これだけ広範囲の部品モデル作成の知識が見につけば、自ずと自分のアイディアで他の電子部品の部品モデル作成への応用力をつけられると思います。

無料で150点以上の部品モデルとシミュレーションデータが付属

本書では、付属のCD-ROMに無料で150点以上の部品モデルとシミュレーションデータが保存されています。

しかも、提供される部品モデルのデータは暗号化されておらず、部品モデルの評価レポートもあるので、今後、自分で部品モデルを作成していく際に非常に参考になります。

実際に販売されている高精度な部品モデルだと、1点で5000円~2万円と高価だったり、そもそも暗号化されていたりするので、勉強用での購入には不向きな場合が多いです。

電子部品の部品モデル作成方法の解説だけでも大変価値がありますが、さらにこれだけのデータが付属しているとなると、本書の書籍代3200円(税別)はかなり安いと思います。

『定番回路シミュレータLTspice部品モデル作成術』を読む上での注意点

これまで、『定番回路シミュレータLTspice部品モデル作成術』の特徴を紹介してきましたが、自分で自由に高精度な部品モデルを作れるようになるのでしょうか?

本書の表紙には「コンデンサ/トランジスタ/トランス/モータ/真空管・・・どんな部品もOK!」と書かれているものの、現実的には本書を読んだだけでは、自分で自由に高精度な部品モデルを作成することはできません。さらなる部品モデルの専門知識や部品モデル作成のために準備すべき計測機器・ツールが必要です。

もちろん、本書での知識は部品モデルを作成する上で有益なのは間違いなのですが、あくまで、これから部品モデルを作成していく上での導入知識だと考えた方が良いでしょう。

低周波数用の部品モデル作成の解説が中心

回路の動作周波数が高くなるほど、寄生インピーダンスの影響が大きくなるため、部品モデルの等価回路モデルの場合、構成する等価回路が複雑になり素子数が増えます。

例えば、本書では、コンデンサやコイルの等価回路モデルだと、2素子モデル、3素子モデル、4素子モデル、5素子モデル、ラダーモデルが紹介されていますが、本書での部品モデル作成は2素子モデルや3素子モデルなどの低周波用の解説が中心になっています。

高周波用の5素子モデルやラダーモデルでの部品モデル作成は、詳しい解説はありませんので、2素子モデルや3素子モデルの知識をもとに自分で考える必要があります。

特定の計測器・ツールがあることが前提となっている

本書には、以下のように特定の計測器・ツールがあることが前提で、部品モデル作成の解説がされています。

本書に頻出する計測器・ツール
  • インピーダンスアナライザ
  • パラメータ抽出ツール
  • パラメータ最適化ツール

など

インピーダンスアナライザ

受動素子の部品モデル作成では、周波数特性によって作成する等価回路が異なるので、インピーダンス特性のデータを入手する必要があります。

例えば、抵抗の場合、データシートにインピーダンス特性が掲載されていないのがほとんどですし、デバイスメーカーから直接、入手するのも難しいかもしれません。

本書では、インピーダンスアナライザ4294Aを使用して、抵抗・コンデンサ・コイルのインピーダンス特性を測定していますが、かなり高価な測定器なので、導入できるのは一部の企業に限られると思います。

また、仮に電子部品のインピーダンス特性のデータが入手できたとしても、生データではなくPDFファイル(画像データ)での提供となると数値化するのにかなりの労力が必要です。

実際に電子部品のデータシートはほぼPDFファイルで用意されているので、画像データから数値情報を読み取るツールもあった方が良いと思います。

パラメータ抽出ツール「PSpice Model Editor」

本書では、電子部品の電気的特性で必要なパラメータを入力すると、部品モデルのパラメータモデルを作るうえで必要な「モデル・パラメータ」を抽出することができる「PSpice Model Editor」が頻出します。

正直、私はこのツールが出てきた時点で、「えっ、LTspiceだけで部品モデルを作るんじゃなかったの???」と思ってしまいました。

さらに、「PSpice Model Editor」は回路設計ツール「OrCad」の付属ツールなので、製品版ライセンスを購入するとなると、100万円以上の費用が必要です。

一応、本書が出版された時点の2013年6月では、評価版を使うことはできるようですがモデル・パラメータを抽出できる電子部品は「ダイオード」に限定されてしまいます。

しかし、本書ではダイオードのパラメータモデルを作成する以外にもバイポーラトランジスタのパラメータモデルの作成でも、この「PSpice Model Editor」を利用することが前提となって解説されています。

最適化ツール

例えば、本書では、コンデンサの等価回路モデルだと、コンデンサにESR(等価直列抵抗)とESL(等価直列インダクタンス)成分を含んだ3素子モデルの作り方を中心に解説されています。

このコンデンサの3素子モデルは、コンデンサ・ESR・ESLのパラメータをパラメトリック解析で3素子モデルのインピーダンス特性を確認しながら自分で決めていくのですが、4素子モデル以上だと「専用の最適化ツールを使います。」の一言で説明が終わっています。

どうやら、最適化ツールは、パラメトリック解析で手動でパラメータを決めるのではなく、自動でパラメータを決めてくれるソフトウェアのようです。

動作周波数の高い回路で、現実の回路と再現性が高いシミュレーションをするには、5素子モデルやラダーモデルを採用しなければなりませんので、もう少し「最適化ツール」について詳しい説明があって良かったと思います。

オペアンプの部品モデル作成についての解説がない

本書では様々な電子部品の部品モデル作成について解説されていますが、オペアンプの部品モデル作成についての解説は全くありません。

ただ、本書の著者である堀米毅氏は「Bee Technologies(ビー・テクノロジー)」の代表でもあり、マルツオンラインで普通にオペアンプの部品モデルを販売しているので、オペアンプの部品モデル作成の知識は十分にあると思われます。

現在のアナログ電子回路では、オペアンプを使用することが多いので、できれば少しでもオペアンプの部品モデル作成についても解説を加えてもらえればありがたいと思いました。

まとめ

最後に要点をまとめてみます。

  • 様々な電子部品の部品モデル作成方法を網羅
  • 無料で150点以上の部品モデルとシミュレーションデータが付属
  • 現実的には本書を読んだだけでは、自分で自由に高精度な部品モデルを作成することはできない

定番回路シミュレータLTspice部品モデル作成術』は様々な電子部品の部品モデル作成方法を網羅されている上、無料で150点以上の部品モデルとシミュレーションデータが付属しており、書籍代3200円(税抜)は安すぎると言っていいぐらいです。

ただし、さらなる部品モデルの専門知識や部品モデル作成のために準備すべき計測機器・ツールが必要になってくるので、現実的には本書を読んだだけでは、自分で自由に高精度な部品モデルを作成することはできないです。

これらのことを考えると、本書の表紙に書かれている「コンデンサ/トランジスタ/トランス/モータ/真空管・・・どんな部品もOK!」は語弊があると感じます。

それでも、LTspiceの部品モデル作成において日本で唯一の解説書で、部品モデルを作るうえでの導入知識は得られるはずです。

ぜひ、これからLTspiceの部品モデル作成を考えている方は、購入してみることをおすすめします。

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