アナログ回路設計はなぜ難しいのか?

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当記事では、あくまで当サイト管理人からの視点で、「アナログ回路設計(アナログ電子回路の設計)はなぜ難しいのか?」について説明していきます。

アナログ回路を理解すること自体が難しいということもあるのですが、加えて大学での勉強や企業での設計実務などの外因的な要因についても考えてみます。

目次

アナログ回路を理解するのが難しい

はじめに、アナログ回路(アナログ電子回路)を理解すること自体が難しいことについて考えてみたいと思います。

まず、電子回路で扱う電気信号について着目すると、この電気についてイメージすることが大変なのです。

当然ながら、電気以外にも様々な工学分野があり、例えば、機械、土木などであれば現象を人間の目で見ることができるので、イメージしやすいです。

しかし、電気の現象(電気信号)を人間の目で確認することはできないので、テスターやオシロスコープなどの測定器を用いながら、電子回路上の動作を頭の中だけでイメージできるようになる必要があります。

さらに、現在、電子回路の設計はアナログ回路とデジタル回路に大別されますが、デジタル回路はしきい値により0(LOW)/1(HIGH)を判別して離散値(非連続の値)として扱うので理解しやすいです。

一方、アナログ回路は電気信号を連続値として扱うので、0/1で考えるデジタル回路より考慮する要素が多くなるため、より理解するのが難しくなってしまうのです。

なお、アナログ回路とデジタル回路の詳しい違いについては、以下の記事をご覧下さい。

大学のアナログ回路が現実の設計と乖離している

大学のアナログ回路(アナログ電子回路)の講義は、以下のようにトランジスタ回路を最初に習うことがほとんどです。

アナログ回路の講義例
  1. トランジスタの基本特性
  2. トランジスタの基本増幅回路
  3. トランジスタのカレントミラー回路
  4. トランジスタの差動増幅回路
  5. トランジスタの負帰還増幅回路
  6. トランジスタの演算増幅回路
  7. トランジスタの発振回路

トランジスタの基本増幅回路である「エミッタ接地増幅回路」一つとっても、あまりにも難しい説明や計算で投げ出したくなってしまった人も多いのではないかと思います。

しかし、こうしたトランジスタの増幅回路や発振回路は、オンボード(基板上)での現実のアナログ回路設計では使われることはありません。

現在、トランジスタの代わりに、アナログICの「オペアンプ」を使用することがほとんどです。

オペアンプであれば、抵抗の比率で増幅率が決められるのでトランジスタに比べて簡単に設計できます。

また、オペアンプはICとして集積回路化されているので、少ない部品点数(小面積)で増幅回路を作ることができ、部品によるバラツキの影響が少なくコストも安くなるのです。

もちろん、トランジスタの増幅回路も知識としては大事ですが、実際に仕事としてアナログ回路の設計をするようになると、一部の回路を除き、わざわざ設計できるレベルまでトランジスタについて学ぶ人は少ないです。

それに、大学ではアナログ回路設計の現場で使われないトランジスタの勉強ばかりするので、いくらオペアンプの増幅回路がトランジスタと比べて簡単と言っても、会社に入ってから一から勉強することになってしまいます。

さらに、大学のアナログ回路で想定される電子部品は全て理想素子であることがほとんどですが、現実には特性が理想的な電子部品は存在しません。

そのため、一つの種類の電子部品にも様々な特性が存在し、設計するアナログ回路に最適な部品選定する必要があるのです。

例えば、オペアンプには、全体的にほどほどの特性を持つ「汎用オペアンプ」、直流特性が良い「高精度オペアンプ」、交流特性の良い「高速広帯域オペアンプ」などに分類されます。

また、「高精度オペアンプ」は直流特性が良い代わりに交流特性が悪い、「高速広帯域オペアンプ」は交流特性が良い代わりに直流特性が悪いなどと欠点も存在します。

仮に、理想オペアンプが存在したら、オペアンプの種類がたくさんある必要はなく、一つの種類に集約されてしまいますよね。

このように、現実のアナログ回路設計と大学の勉強に乖離があるため、元々、難しいアナログ回路をよけいに難しくしているのではないかと思います。

なお、オペアンプの詳しい電気的特性については、以下の記事をご覧下さい。

企業で設計の実務経験をつめない

現在、特定の企業(メーカー)では、電子機器の開発において、開発業務を細分化して一人のエンジニアが狭い特定の分野のみを担当するようになってきました。

さらに電子回路設計やソフトウェア開発を社内で行うのではなく、グループ企業や下請け企業に外注化している場合が多く、仕様書作成、外注管理などといった事務的な仕事が中心になります。

確かに昔に比べて回路規模が大きくなって一人で担当しきれなくなってきたこともありますが、会社側にとって、このような労働スタイルの方が社員の教育コストを安くできます。

そのため、こうした企業では、そもそも設計の実務をしていないので、アナログ回路設計(アナログ電子回路)だけに限らず、入社した従業員が高度な技術スキルを身につけるのは難しいと言えるでしょう。

もちろん、全ての企業がこうした点に該当するのではなく、エンジニア育成に力を入れている企業もあるので、最初に就職する会社選びが重要になってきます。

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