理想オペアンプとは何か?

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当記事では、「理想オペアンプ」について詳しく解説します。

実物のオペアンプ(OPアンプ/OP-Amp)を理解するためには、事前に理想オペアンプについて深く理解することが非常に重要になります。

目次

なぜ理想オペアンプを理解する必要があるのか?

理想オペアンプとは、その名の通り、全ての特性が理想的なオペアンプのことを言います。もし、理想オペアンプがこの世の中に存在するなら、どんな回路でも迷わずに使うことができてしまいます。

しかし、理想オペアンプは、あくまで理想的な存在で、現実世界には存在しないオペアンプです。

では、なぜ理想オペアンプを理解する必要があるのでしょうか?

答えの一つとして、理想オペアンプは「理解がしやすい」ということが挙げられると思います。

確かに、理想オペアンプの特性は、実物のオペアンプの特性とはかけ離れており、理想オペアンプの知識だけでは回路設計を行うことは不可能です。

しかし、実物のオペアンプでは「直流特性が高い高精度オペアンプ」、「交流特性が高い高速オペアンプ」などと、それぞれのオペアンプごとにパラメータが大きく異なり、オペアンプを初めて学ぶ方がいきなり理解するとなると難しいと思います。

そこで、まずはパラメータが理想的で簡単になっている理想オペアンプについて学んだ後に、実物のオペアンプについて学んだ方がよりスムーズに習得できると考えられます。

つまり、自分の中に「理想オペアンプ」と言う一つのオペアンプの基準ができあがることで、実物のオペアンプについても正しく特性を理解することができるということになります。

理想オペアンプの特性

理想オペアンプの回路図記号

理想オペアンプ 回路図記号

$$V_{output}=A\left(V_{input+}-V_{input-}\right)$$
$$A:利得(ゲイン)$$
理想オペアンプを表す回路図記号として、上記のように入力+(Input +)、入力-(Input -)、出力(Output)の3端子で表します。
(実物のオペアンプは、それ以外にオペアンプを駆動するための電源端子などが備わっています。)

そして、理想オペアンプの特性についてまとめてみると、以下のような特性が挙げられます。

理想オペアンプの特性
  • 差動利得が∞(無限大)
  • 同相利得が0
  • 入力インピーダンスが∞
  • 出力インピーダンスが0
  • 帯域幅が∞

など

つまり、全ての周波数帯域で、どんなに小さな差動信号でも∞(無限大)に増幅でき、入力端子や出力端子に接続する回路のインピーダンスの影響を受けないことになります。

以下、各項目についてもう少し詳しく説明します。

差動利得

理想オペアンプは、差動入力信号に対する利得(ゲイン)が∞(無限大)になります。

負帰還(ネガティブフィードバック)を伴わないことから、オープンループゲインと呼びます。

差動利得が∞ということは、Input+に100uV、Input-に0Vの電圧を入力したとしても、出力の電圧が∞Vとなります。

つまり、2つの入力端子の差分は、ほぼ0Vに近く、Input+とInput-の端子がオペアンプ内部で仮想的に接続されていると考えることができます。

この考え方を、仮想短絡(イマジナリショート/バーチャルショート)と呼びます。

実物のオペアンプでもオープンループゲインは100dB以上(10万倍以上)あるので、Input+に100uV、Input-に0Vの電圧を入力したとしたら、出力の電圧は10Vになり、十分なレベルの電圧を出力できます。

そのため、理想オペアンプだけでなく実物のオペアンプでも、この仮想短絡の考え方はオペアンプの特性を理解するにあたって、非常に重要なのでしっかり覚えておきましょう。

同相利得

理想オペアンプは、同相入力信号に対する利得(ゲイン)が0になります。

つまり、2つの入力端子に全く同じ電圧の信号を入力すれば、差分が0になるので、利得(ゲイン)も0になるということです。

入力インピーダンス

理想オペアンプの入力インピーダンスは、∞になります。

理想オペアンプの入力端子に接続する回路の出力インピーダンスの影響を受けず、電圧降下を起こさずに必要な信号レベルを取り込むことができます。

出力インピーダンス

理想オペアンプの出力インピーダンスは、0になります。

理想オペアンプの出力端子に接続する回路の入力インピーダンスの影響を受けず、電圧降下を起こさずに必要な信号レベルを取り出すことができます。

帯域幅

理想オペアンプの帯域幅は、∞になります。

実物のオペアンプは周波数が上がるごとに利得(ゲイン)が下がってしまいますが、理想オペアンプでは、高い周波数でも利得は下がりません。

また、オープンループゲインと帯域幅がともに∞になることから、GB積(ゲイン帯域幅積)も∞になります。

ヌラーモデル

ここで、「オペアンプの代表的な回路」の説明に入る前に、「ヌラーモデル」について説明します。

ヌラーモデルは一種の仮想素子のことで、理想オペアンプのモデルを表すのに使うことができます。

理想オペアンプのモデルを表す方法としては、ヌラーモデル以外にも電圧制御電圧源など他の方法もありますが、理解のしやすさを優先して、当記事ではヌラーモデルを用いて説明していきます。
(機会があれば、別記事で他のモデルを用いた解説をするかもしれません。)

ナレータ

ナレータ

ナレータは、電圧、電流ともに0(V=0, I=0)になる仮想素子です。

ノレータ

ノレータ

ノレータは、電圧、電流とも周辺回路により決まる任意の値(Arbitrary value)になる仮想素子です。

短絡/Short(ヌラーモデル)

短絡(ショート) ヌラーモデル

ナレータとノレータを並列接続することにより、短絡(ショート)を表すことができます。

開放/Open(ヌラーモデル)

開放(オープン) ヌラーモデル

ナレータとノレータを直列接続することにより、開放(オープン)を表すことができます。

理想オペアンプ(ヌラーモデル)

理想オペアンプ ヌラーモデル

理想オペアンプの2つの入力端子が完全に仮想短絡/イマジナリショートまたはバーチャルショート(V=0, I=0)となることから、入力部をナレータで表すことができます。

また、理想オペアンプの出力端子は差動入力に対して、電圧と電流が任意の値(V, I:任意)で増幅するから、出力部をノレータで表すことができます。

オペアンプの代表的な回路

ここでは、ヌラーモデルを用いてオペアンプの代表的な回路を説明していきます。

反転増幅回路

反転増幅回路

オペアンプ 反転増幅回路

$$V_{out}=-\frac{R_2}{R_1}V_{in}$$
反転増幅回路は、上式の通り、$\frac{R_2}{R_1}$の増幅率で、$V_{in}$の信号が増幅され、$V_{out}$に出力されます。また、「$-$」の極性が表す通り、$V_{out}$の信号は反転されます。

例えば、$R_1=1kΩ, R_2=10kΩ, V_{in}=1V$であれば、$V_{out}=-10V$になります。
$$V_{out}=-\frac{10k}{1k} \times 1=-10[V]$$
この関係式を求めるために、理想オペアンプをヌラーモデルに置き換えて、反転増幅回路を以下の通り計算してみます。

反転増幅回路(ヌラーモデル)

オペアンプ 反転増幅回路 ヌラーモデル

見やすくするために、回路図の形を変形させます。

オペアンプ 反転増幅回路 ヌラーモデル 関係式

$$I_1=\frac{V_1}{R_1}=\frac{V_{in}}{R_1}$$
$$I_2=I_1$$
$$V_2=R_2I_2=\frac{R_2}{R_1}V_{in}$$
$$V_{out}=-V_2=-\frac{R_2}{R_1}V_{in}$$
このように、ヌラーモデルを用いた反転増幅の等価回路から、関係式を算出することができました。

非反転増幅回路

非反転増幅回路

オペアンプ 非反転増幅回路

$$V_{out}=\left(1+\frac{R_2}{R_1}\right)V_{in}$$
非反転増幅回路は、上式の通り、$1+\frac{R_2}{R_1}$の増幅率で、$V_{in}$の信号が増幅され、$V_{out}$に出力されます。

例えば、$R_1=1kΩ, R_2=10kΩ, V_{in}=1V$であれば、$V_{out}=11V$になります。
$$V_{out}=\left(1+\frac{10k}{1k}\right) \times 1=11[V]$$
この関係式を求めるために、理想オペアンプをヌラーモデルに置き換えて、非反転増幅回路を以下の通り計算してみます。

非反転増幅回路(ヌラーモデル)

オペアンプ 非反転増幅回路 ヌラーモデル

見やすくするために、回路図の形を変形させます。

オペアンプ 非反転増幅回路 ヌラーモデル 関係式

$$I_1=\frac{V_1}{R_1}=\frac{V_{in}}{R_1}$$
$$I_2=I_1$$
$$V_2=R_2I_2=\frac{R_2}{R_1}V_{in}$$
$$V_{out}=V_{in}+V_2=V_{in}+\frac{R_2}{R_1}V_{in}=\left(1+\frac{R_2}{R_1}\right)V_{in}$$
このように、ヌラーモデルを用いた非反転増幅の等価回路から、関係式を算出することができました。

理想オペアンプで回路設計はできるのか?

当記事の冒頭で説明したとおり、理想オペアンプはあくまで理想的な存在で、現実世界に存在するオペアンプではありません。

実務でオペアンプを使った回路設計をするには、今まで学習してきた理想オペアンプの知識を土台に、実物のオペアンプの特性を理解する必要があります。

例えば、理想オペアンプでは、差動増幅で∞の増幅ができますが、実物のオペアンプでは、最大でオペアンプを駆動する電源電圧の範囲までしか増幅することができません。

また、実物のオペアンプには、以下のようにオペアンプごとにパラメータの特徴が異なり、設計する回路に合わせて最適なオペアンプを選定する必要があります。

実物のオペアンプの特性
  • 汎用オペアンプ:全ての特性が平均的
  • 高精度オペアンプ:直流特性は高いが、交流特性は低い
  • 高速オペアンプ:交流特性は高いが、直流特性は低い

など

このような実物のオペアンプを理解するためには、オペアンプのデータシートを読めるようになって、それぞれのオペアンプの仕様(スペック)を把握できるようにしなければなりません。

オペアンプの絶対最大定格や電気的特性などの詳しい仕様の解説については、以下の記事にまとめましたので、ぜひご覧ください。

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