LTspice-ドットコマンド「.ic」(初期状態設定)の使い方

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当記事では、ドットコマンド「.ic」(初期状態設定)の使い方について詳しく解説します。

「.ic」を使用して、電圧や電流の初期状態を設定することで、シミュレーション時間を短縮することが可能です。

目次

「.ic」の構文

「.ic」の構文は以下のようになります。通常、シミュレーション開始時の初期状態は0Vなのですが、「.ic」を使うことによって電圧や電流の初期状態を任意の値に設定できるのです。

.ic [電圧(ノード名)または電流(部品名)]=[]

「.ic」の構文はそれほど難しいものではなく、例えば、V(n001)のシミュレーション開始時の初期状態を5Vにする場合は以下のようになります。

.ic V(n001)=5

「.ic」のシミュレーション例

「.ic」のシミュレーション例として、昇圧/反転DC-DCコンバータのLT3580のデモ回路において、出力電圧が定常状態になった後のリップル電圧を確認するシミュレーション時間を「.ic」で短縮してみたいと思います。

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以下のリンクをクリックして、アナログ・デバイセズのデモ回路ダウンロードページに移動します。

Analog Devices
LT3580 デモ回路 ダウンロード

「Search」に「LT3580」を入力します。検索結果にLT3580のデモ回路へのリンクが表示されるのでダウンロードします。

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LTspice XVII LT3580 シミュレーション実行

シミュレーション結果のグラフ波形が判別しやすいように、あらかじめLT3580のSS端子(ソフトスタートピン)に「SS」のラベルを接続しておきます。

ラベル接続後、まずは「.ic」を使わずに「Run」をクリックして通常のシミュレーションを実行します。

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LTspice XVII LT3580 シミュレーション結果

LT3580の回路図で「out」と「ss」を電圧プローブでクリックして、波形ビューワに「V(out)」と「V(ss)」の電圧波形を表示させます。

LT3580はSS端子の電圧V(ss)が約2.2Vに充電されるとともに、出力電圧V(out)が12Vまで立ち上がってくるのがわかると思います。

さらに、12Vに一定になった後のリップル電圧を確認するため、V(out)の0.5~0.6msecの範囲を拡大してみます。

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LTspice XVII LT3580 リップル電圧

V(out)の0.5~0.6msecの範囲を拡大すると、V(out)のリップル電圧が確認できました。

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LTspice XVII LT3580 立ち上がり時間

今回のシミュレーション時間は約17秒かかってしまいました。

シミュレーションに時間がかかるのは、SS端子の電圧の充電に時間がかかってしまうため、出力電圧の立ち上がりが遅れてしまうからです。

そのため、「.ic」を使ってSS端子の電圧の初期状態を2Vに設定して、出力電圧が立ち上がるまでの時間を短縮します。

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LTspice XVII LT3580 .ic シミュレーション実行

「.ic」の構文を追加、トランジェント解析の時間を1msecから0.9msecに変更して、「Run」をクリックしてシミュレーションを実行します。

LTspice XVII LT3580 .ic 構文

「.ic」の構文は以下のように記述して配置します。

.ic V(ss)=2

これで、LT3580のSS端子の電圧の初期状態が2Vになります。

LTspice XVII LT3580 トランジェント解析 設定変更

LT3580のSS端子の電圧の初期状態を2Vにすることによって、出力電圧の立ち上がり時間が短くなるので、トランジェント解析の時間を1msecから0.9msecに変更します。

また、チェックを入れたままだと、SS端子の電圧の初期状態を2Vにしてもシミュレーション開始時に0Vに戻ってしまうので、「Start external DC supply voltage at 0V」のチェックを外します。

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LTspice XVII LT3580 シミュレーション時間短縮

「.ic」を使用してV(ss)の初期状態が2Vになったことにより、出力電圧V(out)が12V一定になるまでの立ち上がり時間が100usec短縮されました。

そため、トランジェント解析の時間が0.9msecでも全く問題なく、結果的にシミュレーション時間を短縮することができるのです。

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LTspice XVII LT3580 リップル電圧

もちろん、V(out)の0.4~0.5msecの範囲を拡大すると、V(out)のリップル電圧を確認できます。

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LTspice XVII LT3580 SPICEエラーログ シミュレーション時間

シミュレーション時間は「View-SPICE Error Log」をクリックしてログファイルを開くと確認することができます。

回数V(ss)初期状態:0V
シミュレーション時間
V(ss)初期状態:2V
シミュレーション時間
1回目16.908sec16.531sec
2回目16.654sec16.383sec
3回目16.535sec16.386sec
4回目16.510sec16.404sec
5回目16.626sec16.372sec
平均16.6466sec16.4152sec

V(ss)の初期状態が0Vの時と「.ic」を使ってV(ss)の初期状態を2Vに変更した後のシミュレーション時間を比較すると、平均で0.2314秒短縮されたのがわかります。

今回のシミュレーション例では、それほどシミュレーション時間を短縮できませんでしたが、回路の規模が大きい場合はシミュレーション時間短縮の効果は大きくなります。

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