部品メーカー提供のSPICEモデルも受入検査が必要な理由とは?
当記事では、部品メーカー提供のSPICEモデルも受入検査が必要な理由について、詳しく解説します。
部品メーカー提供のSPICEモデルであれば、シミュレーションで実部品と同等の精度が実現できると思いがちですが、実はそうでない場合も多いのです。
部品メーカー提供のSPICEモデルでも精度は良くない?
当記事冒頭でも書きましたが、部品メーカーが提供しているSPICEモデルの精度は、実部品と同等だと思ってしまわないでしょうか?
しかし、実際は簡易的なSPICEモデルで作成されている場合もあります。このような場合、大まかな動きを確認する程度ならともかく、精度が必要とされる回路解析には向かないのです。
必要な解析精度を満たしていないSPICEモデルでシミュレーションを行うと、当然ながら実物の回路と大きく結果が異なってしまうので、全く意味がないですよね。
例えば、以下の記事では温度解析の方法を解説するために、オペアンプのSPICEモデルを温度特性が組み込まれていない「LT1028」から温度特性が組み込まれている「OP113」に変更しています。
もし、ある「LT1028」のSPICEモデルが実部品と同等だと思って、温度特性が組み込まれていない「LT1028」で温度解析をしてしまったとしたら、温度変化によるパラメータの違いは表れないので、必要な解析精度を満たしているとは言えないですよね。
AD8610とOPA627のシミュレーション比較
当記事では、SPICEモデルの精度が悪いとシミュレーション結果にどのように影響があるのか理解するために、AD8610とOPA627のシミュレーション比較をしてみたいと思います。
アナログ・デバイセズのAD8610は1000pFを超える容量性負荷でも容易に駆動できる能力を持つオペアンプです。
AD8610のデータシートを確認すると、以下のように2uFの容量性負荷を接続した際に、テキサス・インスルメンツのOPA627と出力波形の比較をしています。
出力波形の比較をすると、AD8610の出力波形のリンギングがOPA627より格段に低いのがわかります。
これを、LTspiceを用いてシミュレーションでも比較してみます。
AD8610とOPA627のSPICEモデルを、アナログ・デバイセズとテキサス・インスルメンツのWEBサイトからそれぞれ入手します。
AD8610のデータシートに記載されている「容量性負荷駆動のテスト回路」と同じ回路をLTspiceで作成して、シミュレーションを実行します。
なお、回路に使用した抵抗とコンデンサは周波数特性の変化がないLTspice標準の受動素子を使用しています。
シミュレーション結果を比較すると、どちらの出力波形(青)もリンギングが高くなっていることがわかります。
特に、AD8610のシミュレーションでの出力波形は、実機の出力波形に比べて、リンギングのp-pが3倍以上になっています。
このシミュレーション結果により、AD8610のSPICEモデルは容量性負荷駆動のシミュレーションでは必要な精度を満たしておらず、全く使えないことがよくわかりますね。
SPICEモデルの精度を知るには?
AD8610のシミュレーション結果からわかるように、実部品の受入検査と同様、シミュレーションを行う前ににSPICEモデルを評価して、精度を確認しておく必要があります。
SPICEモデルの評価レポートを部品メーカーから入手する
一番手間がかからないのが、「SPICEモデルの評価レポートを部品メーカーから入手する」ことです。
しかし、SPICEモデルをWEBサイト上で提供している部品メーカーでも、SPICEモデルの評価レポートを用意していないケースが多いのです。
私自身、ある大手の部品メーカーにSPICEモデルの評価レポートがあるのか問い合わせたことがあるのですが、やはり「評価レポートはありません。」との回答でした。
自分でSPICEモデルを評価する
部品メーカーからSPICEモデルの評価レポートが入手できないのならば、自分でSPICEモデルを評価するしかありません。
ただ、SPICEモデルのネットリストの内容から評価することは難しいので、評価用のシミュレーションを行い回路解析に必要な制度があるのか電気的特性を確認する必要があります。
今後、当サイトでもSPICEモデルの評価方法を詳しく解説する予定です。